多くの消費生活必需品の値段が上がっている。日本では「便乗値上げ」というが、米国ではGreedflation(強欲インフレ―ション)」という言葉が広まっているようだ。以下にNY Timesの記事を紹介したい。
議論の対象: 「グリードフレーション」
4月のインフレ率は10カ月連続で鈍化したが、多くの企業は依然として値上げを続けている。 なぜか? 経済学者の中には、企業がパンデミックやウクライナ戦争、エネルギー価格の高騰などのインフレ事象を言い訳にして、コスト高を補って余りある大幅な値上げを行う「グリードフレーション」を非難する人もいる。インフレ率が歴史的に高いことを知っている顧客は値上げを受け入れやすく、企業は可能な限り値上げの機会を利用しているという考え方だが、この見方は分かれている。
【グリードフレ―ション支持派】
ファクトセットのデータによると、今年は純利益率は低下するとの一般的な予想にもかかわらず、S&P500企業では純利益率が上昇している。これはグリードインフレーションの存在を示していると、マサチューセッツ大学のウェバー教授は、「多くのケースで見られるのは、販売量が減少しているのに、価格は上昇し、利益率は上昇しているということだ」と述べた。
彼女は「売り手のインフレ」と呼ぶものの極端な例としてスターバックスを指摘している。 2020年、パンデミックによりコーヒーショップの需要が遮断されたとき、スターバックスは需要拡大策として通常行われるコーヒーの価格を下げず、実際には価格を上昇させた。
【反グリードフレ―ション派】
一方、政府からの景気対策小切手、低金利、投資利益などの恩恵を受けた顧客は、パンデミックを乗り越えて良好な経済状況にあり、彼らの支出を増やす意欲が主にインフレを促進していると指摘するアナリストがいる。
ジョージ・メイソン大学のベックワース氏は、「利益の話をする人の多くが、その話を成立させるためには家計が実際にお金を使わなければならないことを忘れているように思える。支出の大幅な急増を見れば、インフレの因果関係がどこにあるのか、私には、はっきりする」と述べた。
いずれにせよ、サプライチェーンの混乱やその他のインフレ圧力は緩和されており、企業が価格上昇の原因を他のインフレのせいにすることは難しくなっている。 UBSのチーフエコノミスト、ドノバン氏は「一部の企業は、値上げの背景に『一般的なインフレ圧力』があると主張しているが、消費者がそれを受け入れる意欲は低い」と述べた。
しかしウェーバー氏は、企業がグリードフレ―ション戦略を学んだため、インフレを引き起こす新たな危機がいつでも発生する可能性があると警告する。
(引用終わり)
日本では、2022年は記録的な値上げの年となり、累計2万品目を超える主要な食料品・生活必需品が相次いで値上げされた。2023年も原材料価格の高騰やエネルギーコストの上昇が続き、加工食品をはじめ、小麦関連製品やティッシュ・トイレットペーパーなど、日常よく使用する7,000品目が4月までに値上げされ、10月までにはさらに6500品目が値上げされると報道されている。
これまで30年間にわたり押さえられていた値上げが堰を切ったように実施される見込みだが、グリードフレ―ション、便乗値上げに相当するものは無いのだろうか。
デフレ下で、鳥貴族で焼き鳥を10円値あげしたら客数が10%減ったことがあり、スシローでも最近の値上げで客数が減ったという報道もあるが、食料品の値上げに対しては日本人は鈍感になったようだ。黒田総裁が言ったように、「許容度が高まった」ということだろうか。
外食と違い、生活必需品、特に食品は簡単に代替が見つからず、消費を抑えるのが難しいからではないかと筆者は考える。政府には期待出来ないので、我々消費者はワイズスペンディングに心がけ、便乗値上げする企業には需要減で対抗すべきだ。「パンがなければケーキを食べる」とマリー・アントワネットも言っているではないか。
2023年6月4日 日曜日