青山学院大学名誉教授で内部監査・内部統制の専門家である八田進二氏が、東レの社外取姉役を務めている伊藤邦雄一橋大学名誉教授を激しく非難している。
「東レの“お飾り社外取”が会社をダメにした」という見出しが躍る週刊ダイヤモンドオンラインの八田氏へのインタビュー記事だ。
東レは2017年以来、2022年、2023年と製品の品質不正が明るみに出て、優良企業の評判に傷がついているのだが、同記事によれば、経済産業省の「伊藤レポート」などをまとめ、企業統治の“大家”として知られる伊藤邦雄氏が、東レでは長年にわたって社外取締役やガバナンス委員長などを務めており、八田氏は伊藤氏の責任を問うているのだ。
インタービュー部分の冒頭を引用する。
『(記者)不祥事を繰り返している東レですが、ガバナンス論で高名な伊藤邦雄・一橋大学名誉教授らが社外取締役に就いていながら、なぜ不祥事を防げないのでしょうか。
(八田)社外取締役は、不祥事の端緒を見つけたとき、あるいは発覚したときに、最も真価を発揮する。東京証券取引所に独立役員として届け出ている以上、経営陣に対して中立の立場で物が言える人だから、本来は不祥事が起きたときに、社外取締役がリーダーシップを取って不祥事対応を行うことができます。
例えば、経営陣の責任にまで至らないような現場サイドだけの不正事案であれば、内部監査部門や、コンプライアンス部門などの社内のけん制機能を使って、社内調査を徹底的にさせる。
あるいは、東レのように、複数のセグメントで長年にわたって不正が行われていることが明らかな場合は、経営陣にも不正に関与した人がいるかもしれない。そのため、外部のコンサルタントや弁護士を雇ったり、社外取締役の手に負えない場合は、外部調査委員会を設置するなど、不正を追及するためにさまざまなアプローチを取ることが可能です。
しかし、東レの場合はたびたび品質不正が発覚している。
その間、在任期間の長い伊藤氏は社外取締役として、こうした度重なる不正にいかに対峙してきたのかが問われるのでしょう。少なくとも社外取締役として機能不全、いわば「お飾り」になっていると言われても致し方ないのではないか。従って、なぜ東レの経営陣の監視・監督をできなかったのか、徹底した責任追及が求められる可能性があります。』
東レの取締役会は社内8名、社外4名で構成されている。取締役会の構成は8対4で社内が圧倒的多数で、社長の意に沿った決定が可能だ。
社外取締役は、伊藤氏のほかには、ノーベル化学賞を受賞した野依良治氏、神永晋氏(デフタキャピタル取締役)、二川一男氏(元厚生労働時間)であり、企業経営に詳しいのは伊藤氏と神永氏ぐらいで、経営に関する議論では経営陣にとても太刀打ちできそうもない。
八田氏が言及しているガバナンス委員会(伊藤氏が委員長)については、東レのコーポレートガバナンス報告書を見ると以下の記載がある。
『当社は、取締役会の諮問機関として、中長期的に重要な課題を取締役会に答申するために「ガバナンス委員会」を設置しています。
「ガバナンス委員会」は社内取締役3名、社外取締役4名で構成し、委員長は社外取締役としています。「ガバナンス委員会」における
審議の対象は、以下を含む当社のコーポレートガバナンスに関する事項全般とし、指名委員会と報酬委員会双方の機能を担っています。
・取締役会および監査役会の構成
・取締役会の運営に関する評価
・取締役および監査役の指名方針
・役員報酬制度のあり方
・社長を含む経営陣幹部の選解任に関わる基本方針
なお、ガバナンスの客観性および透明性を確保するために、社外取締役および社外監査役の独立性に関する基準を定めています。』
驚いたことに東レには任意の指名委員会、報酬委員会は無かったのだ。
ガバナンス委員会は、前述の社外役員4名と、社内からは代表権のある日覚昭廣社長、大矢光雄副社長、萩原識副社長の3名で構成されている。数の上では4対3で勝っているが、社外役員が自分たちの考えを通すのは難しそうだ。
日覚氏は大変なワンマン社長だそうだが、このガバナンス委員会さえ押さえてしまえば、人事や指名についてうるさいことを言われる心配がないので楽勝だ。
こんなときには社外取締役はどうしたらよいのだろうか。平時ではない。品質不正問題への対応の話だ。
私の経験では、社外役員は自分の考えを経営者に実行させる(ような大それた)ことは出来ない。出来るのは、言われたことを実行しない(Noという)ことだ。
4人の社外役員は、品質不正に(あるいはそのようなことを可能にする企業風土に)気付いたとき、どのように反対の意思表示をしたのだろうか?
自分たちの考えが経営陣に受け入れてもらえないときは、社外役員を辞するに如くはない。ガバナンスの大家である伊藤教授が突然社外役員を降板すれば、大きな問題提起になったはずだ。
2023年4月1日 土曜日