プロレスからゲーム理論について

 先週土曜日に、武藤敬司の引退試合を取り上げた。武藤は引退試合を内藤と戦い負けた。さらに、リングサイドで解説していた蝶野をリングに呼びあげ、敗北し、完全燃焼して引退したという感動的なストーリーだった。

 この経緯をゲームの理論で考えるとどうなるか。武藤は1対1で2試合を戦ったので、2者間のゲームの理論が使える。

 2者間のゲームの理論でよく引用されるのが「囚人のジレンマ」だ。

 囚人のジレンマとは、各々が自分の利益を追求するよりも、お互いに協力した方がリスクは小さく、利益を得られるというゲーム理論モデルのひとつだ。具体的な例として、ある犯罪に関与した2人の囚人が別々の部屋で尋問されている、という状態で、自白と黙秘、それぞれの選択肢のどちらを選ぶかによって結果が異なるという状態のことを指す。

【囚人のジレンマのイメージ】
 二人の囚人が警察に収監されている。れぞれが自白した場合は両者とも懲役10年、それぞれが黙秘した場合は両者とも懲役2年、片方だけ自白した場合は、自白した方が無罪、黙秘した方は懲役20年という状況下で、互いに協力するか、自分の利益のみ追求するかによって結果が大きく変わる。

 2人の囚人にとって全体の利益を考えるのであれば、「両者とも自白」をして懲役10年になるよりは、「両者とも黙秘」をして懲役2年の刑を受ける方が得な結果となる。
 しかし、どちらの囚人も自分の利益だけを追求すると、結果的に「両者とも自白」、となるジレンマの状態となる。

 「パレート最適」と「ナッシュ均衡」の概念を説明する。

 パレート最適とは、全体の利益が最大化されている状態のことを指す。前述した囚人のジレンマにおいては、両者が黙秘を続け懲役2年を科せられた状態だ。無罪ではなくなるものの、懲役10年or20年という大きなリスクを避け、お互いに利益をもたらしている。

 武藤・内藤戦ではどちらも全力で勝を目指すのでパレート最適はあり得ない。

 ナッシュ均衡とは、自分にとって最も利益が最大化する選択をそれぞれがとる状態(他者の利益を考えない)のことを指す。囚人のジレンマにおいては、「自白」という選択肢を選ぶことだ。最大のリスクは懲役20年が科せられることなので、リスクを避けつつ自分の利益が最大化されるのは自白しかない。

 プロレスでナッシュ均衡を目指すというのは勝を目指すということだろう。

 さて、プロレス同様に相手と1対1で戦う場合は簡単だが、実社会ではそういった状況はまれで、武藤と内藤と蝶野が1度にリングにあがるバトルロイアル状態になるのが普通だろう。

 こうした場合のゲーム理論は飛躍的に難しくなる。戦う人間が3人に増えるだけでなく、戦術も多彩になる。

 2者が組んで一人を攻撃するとか、フォール勝ちを狙わずに反則勝ちする(タイトルは移動しない)とか、リングアウトで負ける(肉体的なダメージを受けない)とかのバリエーションが多彩になる。

 今日の結論:プロレス同様に登場人物が増えるとゲームの理論は飛躍的に複雑になり、実社会ではまだまだ使えない。

2023年3月4日 土曜日