アメリカ生活の楽しみは夜のトークショー番組だ。そうしたトークショー番組の司会者は絶大な人気を誇るが、日本では殆ど知られていない。
筆者は二度米国で暮らしたが一度目の1980年当時はJonny Carsonが、二度目の1990年代はDavid Letttermanが人気を誇っていた。
恥ずかしいことだが、Carsonの番組もLettermanの番組も、見ていて半分も理解できなかった。早口の辛辣なジョークが聞き取れないのが一つ。ユーモアの感覚が日本のダジャレの感覚と違っていて理解できないのがもう一つの理由だ。
LettermanのLate Showの収録はニューヨーク市マンハッタンの7番街・53丁目の「エド・サリヴァン・シアター」で昼間行われており、キャパシティーは2階席含め1000席程ある。番組にゲスト出演するセレブリティが毎日出入りするため、多くのファンが駆け付け、アメリカ人にとっては一つの観光スポットともなっている。ショーの鑑賞はアメリカ人のニューヨーク観光の一つの目玉とも言えるものでチケットの入手は困難で毎日常に満席であり、客席インタビューからも判るとおり全米からの観光客が多い。
日本の「笑っていいとも」を仕切っていたタモリの人気に比すとLettermanの人気が日本人にもわかりやすいだろうか。
Lettermanの引退に伴い2015年9月からLate Showを引き継いだのがSteven Corvert(姓はコルベアと発音する)だ。Wikipediaによれば、「スティーヴン・タイロン・コルベア(Stephen Tyrone Colbert、1964年5月13日 – )はアメリカ合衆国出身のコメディアン、俳優、作家。その皮肉たっぷりのスタイルで知られている。3度エミー賞を受賞している。また2006年と2012年に、タイム・マガジンの「最も影響力のある人物100人」の一人に選ばれている。造語「ウィキアリティ」の考案者として知られる。」ということだ。
ここ数日米国メディアを騒がしているのが、コルベアが司会をするLate Showが来年5月で打ち切りになるというニュースだ。
トランプ政権をジョークのネタとして辛辣に批判するコルベアが現政権と現在のCBSのオーナーに疎まれたからという見方が殆どだ。
CBSと言えば、ウォルター・クロンカイトはイブニング・ニュースの司会者としてアメリカの夕方のニュース番組を支配した。そして、マイク・ウォレスの時代からレスリー・スタールとスコット・ペリーの時代に至るまで、「60 Minutes」は長編テレビ報道の基準を確立した。3大ネットワークの中で最も信頼できるという評価を確立してきた。
こうした評価は最近揺らいでいる。以下The Atlanticの詳細な記事だ。
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問題の始まりとして妥当なのは、2016年だろう。それはトランプが初めて大統領に選出された年であり、CBSの親会社パラマウントのオーナーで、頑固だが高齢のサムナー・レッドストーンが娘のシャリ・レッドストーンに経営権を譲った年でもある。 2023年、シャリ・レッドストーン氏は会社の売却先を探し始め、最終的に2024年にスカイダンス社と合意に至った。合併には連邦政府の承認が必要だ。
2024年大統領選中、テレビ局「60 Minutes」はトランプ氏の民主党の対立候補であるカマラ・ハリス氏にインタビューした。トランプ氏はCBSを提訴し、同局が彼女のインタビューを不適切に編集したと主張した。彼は200億ドルを要求したが、これは法外な金額だった。特に、憲法修正第一条を擁護するほとんどの弁護士が認めるように、この訴訟には根拠がなかったからだ。
しかし、トランプ氏には大きな影響力があった。11月の大統領選挙で勝利し、スカイダンス社とパラマウント社の合併案の承認に関与することができたのだ。最初の任期中、トランプ氏はすでに承認権限を使ってメディア内の政敵を罰する意欲を示しており、AT&Tとタイム・ワーナーの合併を阻止しようとしたが失敗に終わった。
選挙以来、CBSはトランプ大統領を何とか喜ばせようと躍起になっているように見えるものの、合併は自社の決定に一切影響を及ぼさないと主張し続けている。CBSは、連邦通信委員会(FCC)委員長に任命されたトランプ大統領の側近、ブレンダン・カー氏に「60ミニッツ」のインタビュー記録を提出した。4月には、「60ミニッツ」の責任者で、広く尊敬を集めるジャーナリストのビル・オーエンズ氏が辞任した。「会社が私に見切りを付けたのは明らかだ」と、彼は会議中にスタッフに語った。メモの中で彼はさらにこう述べている。「ここ数ヶ月で、私がこれまでやってきたように番組を運営し、『60ミニッツ』にとって、視聴者にとって何が正しいのかに基づいて、独立した判断を下すことは許されないことが明らかになった」。大げさな発言や党派的な発言をしない番組記者の中には、インタビューやスピーチで懸念を表明する者もいた。
今月初め、CBSはトランプ大統領の訴訟を終結させるため、1600万ドルの和解金で合意した。この合意ではトランプ氏に直接報酬が支払われるわけではないが、パラマウントはトランプ氏と共同原告の訴訟費用を負担し、トランプ氏の将来の大統領図書館に寄付することに合意した。トランプ氏は、この合意にはトランプ氏が支持する大義を推進する公共広告とされる、具体的な金額を明示しない「広告」も含まれていると述べた。パラマウントはこれを否定している。そして今、コルベア氏の辞任が迫っている。もし辞任の理由が本当に金銭的なものなら、彼の給与は疑わしい訴訟の和解金と比べてどうなのか疑問が残る。
大統領は現在、この合併に好意的な姿勢を見せている。先月、大統領はオラクルの創業者でトランプ氏の友人でもあるラリー・エリソン氏の息子であるスカイダンスのCEO、デビッド・エリソン氏を高く評価した。しかし、この合意はまだFCC(連邦通信委員会)の承認を受けていない。
パラマウントとスカイダンスの幹部は、CBSのジャーナリズムや編集の独立性を守ることに全く関心がないことを露呈しており、これはCBSの歴史的な評判だけでなく、今もそこで働く多くの優秀なジャーナリストにも悪影響を及ぼしている。ジャーナリズムとコルベアの番組は、パラマウントのポートフォリオのごく一部を占めるに過ぎないため、経営幹部は契約維持のためにこれらを犠牲にすることは、冷酷ではあっても賢明な策略と見なすかもしれない。
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現在のLate Showは日本でもYoutubeで簡単に見ることが出来る。Sephan Corvertが、自分自身で今回の急な契約解除について述べる回も視聴可能だ。
Stephen Colbert Announces The Cancellation Of “The Late Show”をYoutubeで捜すと,突然の解除に対する彼の反応を見ることができる。
私が米国に住んでいたころより技術の進歩がこうしたトークショーを理解するのを助けてくれる。
英語の字幕を表示に設定し、再生速度を80%程度にすれば、早口の、トランプに対する辛辣なジョークも大分理解できるようになる。政治的な圧力にコルベアが今後どのように対処してゆくのか、来年の5月までは彼のショーを見ることが出来るので見て行きたいものだ。
2025年7月19日 土曜日