プロジェクト2025と言われてピンとくる日本人は少なかろう。「もしトラ」が実現したらどんな政策が採られるのか、具体的なロードマップがあるのだ。
プロジェクト2025とは何か?
定義
プロジェクト 2025(正称 Presidential Transition Project)は、2024 年の米大統領選挙で共和党が勝利した場合に、米連邦政府の行政部門を再編成するために保守系のシンクタンクであるヘリテージ財団が準備している政策提案集である。
企画理由
「保守派は選挙に勝つだけでは十分ではない。急進左派の支配からこの国を救うには、次期保守政権の初日からこのアジェンダを実行に移せるような統治アジェンダと適任者の両方が必要だ。」 (プレスリリースより)
議題
このプロジェクトは、4 つの柱に基づき、効果的な保守政権への道を切り開くものである。(プレスリリースより)
使命の 4 本柱
1. アメリカ人の生活の中心としての家族の存在を取り戻し、子供たちを守る。
2. 行政主導の国家を解体し、アメリカ国民に自治を取り戻す。
3. グローバルな脅威から、わが国の主権、国境、恵みを守る。
4. 我が国の憲法が「自由の恵み」と呼ぶ、自由に生きるための神から授われる人権を確保する。
石油王のコーク兄弟など数十億ドルの財力持つ大富豪が主導し、資金を提供する保守派は、減税、ビジネスの規制緩和、中絶の禁止、公民権保護や公衆衛生・環境規制の撤廃、公立学校や刑務所といった政府機関の民営化、そして社会保障、メディケア、メディケイド(医療費交付金)、食糧扶助といった福祉制度の撤廃を求めて長年戦ってきた。
企画者
計画の策定は、アメリカの保守系シンクタンクであるヘリテージ(米国文化遺産保護)財団が主導し、チャーリー・カーク率いるターニングポイント USA 財団、マーク・メドウズ元トランプ首席補佐官をシニアパートナーとする保守パートナーシップ研究所、ラッセル・ヴォート元トランプ大統領任命管理予算局長率いるアメリカ再生センター、スティーブン・ミラー元トランプ大統領上級顧問率いるアメリカ・ファースト・リーガル弁護士事務所など、100 を超えるパートナーとの共同作業で進められている。
実行プラン
プロジェクト 2025 は、特に経済・社会政策と連邦政府および連邦機関の役割に関して、政府全体に亘る広範な変
化を想定している。
「上記のすべての問題に対する解決策は、あれやこれやの政府プログラムを弄ったり、官僚を入れ替えたりすることではない。これらは技術主義的な問題ではなく、国民主権と憲法上の統治の問題なのだ。
私たちは、葉を刈り込んだり形を変えたりすることによってではなく、木を根こそぎ枝ごと切り取ることによって解決する」(「保守派の誓約」より)
2023 年 9 月、元トランプ政権高官であるポール・ダンス氏プロジェクト・ディレクターは、プロジェクト2025 は、「ディープ・ステートとの戦いに備え、整列し、訓練され、本質的に武器化された保守派の(官僚の)新しい軍隊を、政権に進軍させ、連れてくるために組織的に準備している 」と述べた。
実際に、MAGA 理念を教える大統領行政アカデミーというオンラインコースと、委任移転計画策定のためのガイドも一般公開されているので、企画者の計画は決して隠し事ではない。
政府にどのような変化を意図されているのか?
企画者はまだ具体的な提案の草案を作成中だが、時計の針を100 年前に巻き戻すいくつかの政策や法律の考案について原則的な合意点を表明している。
先ず、トランプ大統領第二次就任後の最初の6ヶ月間で、なるべく早く連邦政府一新計画に参画するつもりだ。何をするかについて複数の情報源より以下でまとめた。
文化でのアジェンダ
o キリスト教ナショナリズム:
アメリカは元よりキリスト教国家である、と企画者は確信している。それで、政府及び公共生活に於いて、キリスト教の教義に沿った政策を導入したがっている。実際に、憲法上の宗教と国家の分離を認めながらも、キリスト教の聖句に基づいた統治システムを提案し、これには「キリストに定められた」文民司政官を全国に配置することも含まれます。
o 伝統的家庭構成:
女性が結婚し、家庭で家族を養い、男性が世帯主を務めるという「伝統的家族モデル」を強く支持すると表明しており、このアジェンダを強化する諸政策が実施されるだろう。
o ポルノ禁止:
あらゆるメディアにおけるポルノが非合法化され、製作者や販売者(配信者)は「性犯罪者」に指定され投獄される。違反したメディア企業は法的に閉鎖されてしまう。
o 生殖制限強化:
妊娠中絶は、妊娠のごく初期にのみ許可されるか、全く許可されない方針だ。”Fetal personhood” (受精時点より胎児人格保護)の政策採用が予想される。同様に、医薬品による避妊は自然避妊に置き換えられるよう市民に訓戒する。また、連邦政府に、中絶件数などの定期報告書の届け出が各州に義務付けられる。
o さらば Woke :(「目覚め」)という社会改良意識)
Wokeのリベラルな運動には根本から反目し、LGBTQ への差別解消は先ずななる。
o 教育制度再編:
教育省は閉省され、(連邦政府指令の)公教育は義務づけられなくなる。企画者は教育省を 「醒めた教育カルテルの拠り所」と呼んでおり、特に大学の存在に対して激しい怒りを抱いている。大学とは「ダイバーシクラッツ」(社会多様性に拘る鼠)にはびこられ、「連邦認定のグルによって事実上独占されている組織」だと蔑視している。
移民と人口でのアジェンダ
o 人種置換理論:
企画の上級指導者は、主に置換理論を支持する白人男性です。この理論とは、アメリカ共和国は中心的にヨーロッパ系白人によって建国され、これらの白人がアメリカを偉大にする制度を作り上げてきたというものだ。
しかし近年、白人以外の人々、特に外国生まれの人々が、トランプによれば 「国家の血を汚す 」存在となっている。新政権は、特に発展途上国(トランプの言う「肥溜め諸国」)からの移民を全体的に制限することが予想される。
o 国籍届け出義務:
以前トランプ大統領は国勢調査局に対し、居住者が合法的な米国市民かどうかを尋ねるよう指令を試みたが、裁判で敗訴した。今後は国勢調査の質問欄に市民権が追加されることになる筈で、これは明らかに非正規移民を特定する手であるように思われる。
o 違法移民の大量強制送還:
「国境崩壊」が今大多数の有権者にとって厄介な問題であることを企画者が察知している。それでトランプ陣営は「史上最大の強制送還」を約束している。プロジェクト 2025 は、移民管理のために州兵を派遣することを考えて、具体的には、共和党寄りの州の州軍が移民保護する民主党寄りの州に越境して、連邦政府の命令を執行する考えだ。数百万人の不法移民は強制送還できるまで強制収容所に拘束するという案だ。現時点でも、連邦政府に逆らい、多くの州が移民取締りに州兵を起動する用意があると言うのだ。しかし、各州政府は、他州の州兵(若しくは国兵)が不法入国者の検挙に動員されることを果たして許すだろうか。州政府対連邦政府また州間の争いに成りかねない。
因みに、一部の企画者は、ホームレスに対しても同様の計画を求めて、トランプ候補はそれに沿ってホームレスを集る都心から都外の大規模テントキャンプに移すことを提案している。
経済でのアジェンダ
o 気候変動対策の見送り:
企画者は反温室効果ガス排出政策の廃止を呼び掛けている。環境問題への警戒は大げさであり、バイデンの政策は不必要に経済にダメージを与えるからと言う。企画者は化石燃料産業と手を組み、天然ガスを推進している。目下、石油生産量とエネルギー独立を更に高めるため、トランプは「ドリル、ドリル、ドリル!」(掘れ、掘れ、掘れ)と誇張している程だ。企画者も同調して「アメリカの膨大な埋蔵量の石油と天然ガスは環境問題ではなく、経済成長の活力源なのだ」 (企画書)と公言する。その延長線で、EPA(環境保護局)は縮小され、商務省も冗長とされると想定される。
o 財政の新方針:
2段だけの軽減且つ簡素化された個人所得税「フラット課税」を採用し、見込まれる税率は 15%と 30%(社会保険賃金で調節)です。法人税は18%とする。FRB(米連邦 準備制度理事会)に対し、雇用より物価インフレ抑制に焦点を置くよう指示する。全体的に、新政権は大企業の厚い味方をする。
o 孤立貿易:
トランプ候補は、米国に入る全ての外国製品に 10%の関税を課すと公言しています。但し、現在 WTO のルールでは、MFN(最恵国待遇条項)は 2 国間の互恵的な貿易政策を目的と しています。(WTO を出るつもり?)トランプ に拠る恣意的な「一律」政策は、却ってアメリカのグローバル経済の勢力に有害となる可能性が高い。最近の研究では、外国製品に 10%の関税をかけるだけでも、アメリカの家庭は平均年間 1,500 ドルの負担を強いられると推測されている。
o 中国からの切り離し:
トランプは、2 期目の任期が終わるまでには、重要品は中国に一切依存しなくなると宣言した。その上に、他の中国製品には巨額の(60%)関税を課すとともに、中国製自動車の米国市場への参入を一切阻止すると約束している。
政治統制のアジェンダ
o 大統領権限の拡大:
The Unitary Executive(大統領の単独行動原則)はブッシュJrの時代にディック・チェイニーをはじめとするネオコたちによって提唱されたもので、湾岸戦争において大統領が(憲法上、宣戦布告の責任を負う)議会を回避して自己裁量で戦争を遂行することを可能にした手段に用いられた。
o 憲法より大統領に誓う:
企画者は2回までの任期を外し、事実上トランプを終身独裁者にすることを提案している。また、現在の政府機関の職員は、雇用条件の「スケジュール F」の下で忠誠を誓うものだけが雇用される。
o 大統領を取締まる省庁を無力化:
司法省は縮小し、FBI と国土安全保障省は解体すると企画者が言う。恐らくトランプ政権がその役割を引き継ぐでしょう。その政権は保守派の組織からなる諮問委員会と協力して天下を取る見込みだ。
o 反体制派の弾圧:
計画では、奴隷の反乱を鎮圧するために指令された「1807 年の暴動抑制法」を発動し、国内に軍隊を配備することが大統領の選択肢内と主張している。現在、国家の軍隊の国内派兵を違法としている。
外交のアジェンダ
プロジェクト 2025 は主に国内政策に焦点を当てているものだが、ドナルド・トランプ自身が「アメリカ第一主義」の考え方を示す複数の声明を表明しており、プロジェクト2025は大統領制を支援するメカニズムであるため、新政権は彼の見解を政策に反映させるために動くと推測するのが妥当だ。
o NATO からの離脱:
トランプの NATO 蔑視は決してニュースではない。彼はプーチンのウクライナ侵攻を理論的に支持していると率直に語っていた。勃発時に「賢い行動だ」と口が滑ったのは有名な話だ。
《トランプ大統領の再登場は、米欧の軍事的協力関係の終焉を意味するだけでなく、ヨーロッパがアメリカから経済的にも切り離されるようになる可能性が非常に高く、最終的にはアメリカの孤立を深めることになるに》違いない。》
o 太平洋圏共同防衛や経済政策の見直し:
大統領時代に日本、オーストラリア、韓国、フィリピンの「クアッド」同盟に、この地域で好戦的になっている中国への対抗に加盟している。その一方で、環太平洋経済連携協定(TPP)へのアメリカの参加には反対した。
気まぐれで急にパキスタン同盟を見捨て、その目の敵のインドに転じたりする経歴がありる。北朝鮮の金委員長への求愛は、悲劇的なものでなければコメディーになるほどだった。大統領在任中の政策は、しばしば思いつきで行われ、結果的に中国に有利に働くことに成った。
以上、プロジェクト2025の概要を詳しく見てきた。
トランプ2.0は、単なる保守政治への回帰でなく、米国社会の根幹を揺るがす問題であることが理解いただけるだろう。
2024年5月11日 土曜日