FRBの金融政策についての米国での論考を読んでいたら、経済学上の基本概念であるフィリップス曲線(以下、P曲線)が出てきて驚いた。私が読んだペーパーでは、「FRBのジェローム議長は、インフレ率5%、失業率5%での均衡を目指している」と述べ、考え方の基礎でP曲線を使っているのだ。それでP曲線についておっとり刀で調べてみた。
P曲線とは、1958年に英国の経済学者、アルバン・ウィリアム・フィリップスが論文で発表した考え方で、「失業率をグラフの横軸に、賃金上昇率を縦軸にとって関係を描くと、賃金が上がる(下がる)ほど失業率が下がる(上がる)右肩下がりの曲線が描けること」が実証的に示され、賃金上昇率と失業率がトレード・オフの関係になるという仮説だ。
野村証券の用語集をみると、「縦軸の賃金上昇率に代えて物価上昇率(インフレ率)を取り、横軸の失業率の関係をグラフにすると同様の右肩下がりの曲線になる。中央銀行が景気動向(失業率)を考慮しながら、金融政策でインフレ率をコントロールする際の判断材料として参考にするが、デフレ下でも失業率が低下したり、インフレ下での不況(失業率の増大)というスタグフレーションの場合もあり、右肩下がりのフィリップス曲線では説明がつかない経済事象も起こっている。」という詳しい説明がなされており、P曲線の概念を適用する際の限界も示している。
日本は、直近で、インフレ率が2.8%、失業率が2.8%というレベルだ。インフレ率が上昇するにつれ景気が後退し、失業率も増加して行く恐れがある。米国に比べ、我が国ではインフレを抑制する手段も、失業率を下げる手段も乏しいと思われるのだが、一番問題なのは、このような基本概念を使って経済政策の妥当性を説明してくれる専門家が極めて少ないことだと思う。
(2022年9月24日 土曜日)