『Talent/Strategy/Risk 長期的価値創造を担う取締役会の仕事』を読んで

日経新聞の土曜日の書評で取り上げられていたので購入。私は現在3社の社外監査役をしているが、社外取締役の機能について深く考えさせられる本だ。

 取締役会が果たすべき機能は何か。それは長期的な企業価値の向上だ。インデックスファンドの隆盛(例えば、ヴァンガード、ブラックロック、ステートストリートのような)で長期的な企業価値の向上を期待する恒久的な投資家が現われた。短期に値上がり益(あるいは空売り益)を狙う投資家とは一線を画してる。

 彼らが指標とするのはTSR(Total Shareholder Return)。
 TSR とは、日本語で「株主総利回り」と呼ばれ、ある一定期間における「株主にとっての投資収益性」を示す株価指標。株式投資により一定期間に得られた「キャピタルゲインと配当(利益)」を「株価(投資額)」で割った比率となっている。(一定期間は、1年・3年・5年など)

 TSRを高くする、すなわち企業の長期的な価値を創造するにはどうすればよいか。
 本書の著者(機関投資家、企業経営のアドバイザー、人材マネジメントの専門家の3名)は取締役会の役割を再定義し、長期的な企業価値のためにリーダーシップを発揮するものへと再構築する方法を提示する。

 彼らが用いる価値向上のレバーは、Talent/Strategy/Risk の新しいTSRだ。取締役会には以下を果たすことを求めている。
・正しい経営チームを築きインセンティブを与える
・経営陣が長期的な視野を持つのを助け投資家にそれを伝える
・新しい挑戦に応えられるように取締役会を再構成し多様性を高める
・サイバー攻撃リスクやセクハラ訴訟といった主要リスクを正面に置く
・アクティビスト株主の視線で事業を分析する
・株主の現状に対応し取締役会は長期に指導する

 本書は、こうした点について具体的な指針を与えてくれる。

 ESGやSDGs、さらにはTCFD、サスティナビリティと各種の屋上屋を重ねるような指標が唱えられており、多くの取締役は(経営者も)まごついている。企業価値を高めるというのは企業にとって達成しないといけない絶対的な命題だ。経営陣と取締役会にとって、Talent, Strategy, Risk(新TSR)という指標はシンプルでわかりやすく、使いやすい。

 他のいろいろな指標に目移りする前に、新TSRを着実に実行しよう。是非一読をお勧めしたい良書だ。

(2022年7月24日 日曜日)