人財の活かし方

 田中真紀子さんの発言に「身内と、使用人と、敵」という人の区分がある。心を許せるほんの一握りの身内と、自分があごで使いこなす使用人と、それ以外は敵だという分け方だ。
 身内の中に優秀な人材がいればよいが、そうでない場合は、使用人の中から有為の人材を捜さなければならない。しかし、所詮使用人扱いされているので、組織に献身しようというモチベーションは働かない。
 身内が権勢を誇っている間は、使用人も言うことを聞き、敵もなかなか手出しが出来ないだろうが、ひとたび権力の座が揺らぐと、使用人は離反し、敵に簡単に攻め滅ぼされてしまう。そういった組織だ。

 あるベンチャー経営者は、高い山に登るアタックチームを率いる感覚で経営している。少数の経営陣が登攀隊を構成し、社員の殆どは支援隊を構成する構図だ。登攀隊の中では意思の疎通がスムーズだ。目的達成に一糸乱れぬまとまりの良いチームが形成できればとても強力だ。

 問題点を挙げるとすれば3点。
 1.登攀隊と支援隊の意思の疎通に問題が無いか
   登攀の目的、手順、ルート選択が共有されているかを常に登攀隊(特に登攀隊長=CEO)は確かめて行動しなければならない。忘れがちなポイントだ。
 2.登攀隊に対して優秀なシェルパはいるか
   優秀な人材で構成される登攀隊は自分たちの判断に自信があるはずだ。そして、時として過信になる。無くてはならないのが優秀なシェルパの存在だ。多方面の経験豊富な社外取締役がそれにあたる。
   万全と思って建てた計画も上手の手から水が漏れることがある。基本的な見落としを「傍目八目」で指摘されることもある。
 3.登攀隊内の軋みをどう防ぐか
   小さな計画の失敗で登攀隊内にほころびが生じることがある。それまで「同志」だと思っていたのに「同僚」に過ぎなくなるのだ。他社からの引き抜きに応じてチームを離脱する者も出るだろう。このような事態に備え、チームをまとめる機会を持つのが対策1,だれか抜けても困らないように新しい人材を獲得しておくのが対策2だ。

 共に働いて愉快な仲間と仕事を達成した際の充実感は何事にも代えられない。そのためにはトップが常に人材の活かし方に心を砕くことが不可欠だ。

(2022年6月11日 土曜日)