『日はまた昇る』ビル・エモット著を再読する

ヘミングウェイの名作ではない。英エコノミスト誌の東京支局長をつとめたビル・エモット氏による2006年2月に著された本だ。同氏は『日はまた沈む』1990年3月刊でバブルの崩壊を予言したことで有名であり、私は急落する日経平均を横目に同書を大いなる共感を持って読んだ記憶がある。

さて『日はまた昇る』はどんな本か。Amazonでは以下のように紹介されている。
「英『エコノミスト』誌編集長による待望の「日本復活宣言」。著者は90年のベストセラー『日はまた沈む』でバブル崩壊を見事に予測した。以来15年間、日本は低迷を続けたが、著者はこの間に日本がゆっくりと、確実に変わったと指摘する。債務と生産能力と雇用における三つの過剰が解消し、制度改革は経済を効率化した。そして正規雇用と所得の回復も見えはじめている。ようやく「日は再び昇りはじめた」。さらに競争と効率化と生産性上昇を促せれば、少子高齢化社会でも年3パーセントの成長が可能だろう、日本という国は歩みの遅い着実なカメであり、足は速いが不安定なウサギである中国に将来的には勝つだろうと予測している。
昨年より株価が上向き、景気回復が言われるが、まだ半信半疑という人も多い。本書はいま日本人が最も読みたい一冊であり、東アジア情勢の展望、政治の変化と靖国問題も論じられ、読みごたえがある。」

私はこう考える。「昇る」が刊行されたのは5年半にわたる小泉政権(2001年4月-2006年9月)の末期で、日本になにがしかの変化の萌芽が出てきたころだった。債務の膨張する大企業(日産やダイエーに代表される)のリストラが進み、2002年の竹中プランで大手銀行の不良資産の半減が打ち出され、金融機関の淘汰の始まる時期だった。

個人的には、大手銀行からバイアウトファンドに転職し、仕事の面白さに取りつかれ、日産やダイエーに関係する大型案件が出てくることに、日本も変わったという印象を強く持った時期だった。失われた10年が終わるかもしれないという希望も持てた。

エモットはこうした暁光期に、「着実な亀が不安定なウサギに勝つ」と日本への希望を述べたがその後はどうか。小泉政権後は首相が1年で変わり、民主党政権が混乱のうちに生まれ、消えた。東日本大震災が国民の不安を募り福島原発の事故がそれを永続させている。無理をして呼んだ東京五輪が多くの無様さを残しコロナ下で何とか終了した。カメはSlow and steadyではなく、ひっくり返ったままだ。

2010年に中国のGDPは日本を抜き、2021年には日本の3倍になっている。GDPだけが国の成功・失敗を示すものではないという見方もあるが、エモットが述べた、「競争と効率化と生産性の向上」は何一つ達成できていない。

世界の不安定要素となっている強権中国を牽制すべき、アジアの成熟した資本主義国としての矜持も日本の政治には見られない。景気回復策として財政出動と金融緩和を繰り返し、成長と発展の柱たるべき企業家精神は低迷している。

エモットの言う「日はまた昇はる」ことは無かった。が、臥薪嘗胆だ。大谷翔平を見よ。松山英樹を見よ。羽生結弦を見よ。スポーツで出来ることはビジネスでも出来るはずだ。若い世代の起業家精神に期待し、出来る限りのサポートをしたい、と思う今日この頃だ。

(2022.5.7 Saturday)