西村賢太「苦役列車」を思い出して

「苦役列車」で2011年に芥川賞を受賞した西村賢太氏が2月5日早朝に急死した。54歳だった。

 高校生くらいからずっと文芸春秋の芥川賞特集号は読んでいたが、最近は読了するのが困難な作品が多く文芸春秋を買う頻度も減った。「苦役列車」はわかりやすく読むのに苦労しない小説だった。

 社会に不満を持ち折り合いのつかない青年が、中学卒業後家を出て、苦役の伴う労働を転々とする様子が綴られている。青年の気晴らしは酒を飲むことと金がたまったら行く風俗だ。西村の実生活をつづった典型的な私小説だ。友人らしき人間がやっと見つかるが仲たがいするのがやや盛り上がり部分になるが、最初から最後まで青年の自堕落な生活が綴られている。

 西村の芥川賞受賞の言葉「そろそろ風俗に行こうかなと思っていた」は話題を呼んだ。受賞後も作家としてコンスタントに作品を発表していたが、自堕落な生活が寿命を縮めたのであろうか。

 似たような私小説の芥川賞受賞作に、村田沙耶香の「コンビニ人間」がある。主人公の女性は他人と普通に会話が出来ないのだがコンビニ店員としての応対は出来る。それでコンビニが人生の中心であり彼女の存在意義なのだ。この辺までは良かったが、最後の方の、好きでもない男と同棲生活を始めるところからは設定がわざとらしく読み続ける意欲を失った。

 村田は受賞後もコンビニで週三回のバイトを継続していたそうだが今はどうしているのだろうか。寡作な作家のようだ。

 西村の死で、西村と村田の芥川賞受賞作を思い出した。
 このような私小説しか受け入れられないのは、自分が私小説的な人間だからだろうか、社会との折り合いをつけにくい人間だからだろうか、と反芻する。  いずれにしても日本には私小説が多いのですがね。

(2022.2.7 Monday)