脆弱な銀行ビジネス

【ファーストリパブリックバンク】
 CNNによれば、ファーストリパブリック銀の株価は今週、約75%下落。24日発表の1~3月期の決算が期待外れだったことから銀行危機への市場の不安が再燃し、同行株からの資金流出を招いた。
 27日には株価が9%反発し、「ホワイトナイト」の出現が期待されたが、事態は悪い方向に転んだ。
 政権情報筋は28日、CNNの取材に、ファーストリパブリック銀を救済する新たな計画はないと述べ、政府介入への期待を打ち消した。米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入る可能性が高いとの報道が相次ぎ、株価は約37%下落した。
 ファーストリパブリック銀が経営破綻(はたん)するかどうかは依然として不透明だ。存続できる可能性もあるが、資金注入なしでは存続は難しいとみられる。ファーストリパブリック銀はすでに先月、大手銀行団から多額の支援を受けた。
 雲行きが怪しくなり始めたのは今週。1~3月期に預金残高が41%減り、1045億ドルに減少したと同行が報告したのがきっかけだ。アナリストが予想していた預金残高は1367億ドルだった。
 マイケル・ロフラー最高経営責任者(CEO)は記者会見で預金の動きは3月末から安定していると述べ、動揺する株主を安心させようと努めた。大手銀行団から受け取った300億ドルを除き、4月4日時点で保険対象外の預金の倍の手元資金があるとも明らかにしたが、投資家の懸念は収まらず、今週1週間で株価は75%下落した。

【信用創造】
 銀行のビジネスは顧客からの信頼で成り立っている。銀行ビジネスの基本である「信用創造」について説明しよう。
 信用創造(Credit Creation)とは、市中銀行の受け入れた預金が、貸し出しを通じ、さらなる預金を生み出し、これによって預金通貨が創造される仕組みである。
 今、当初預金1単位を受け入れた市中銀行はr単位を預金準備として中央銀行に預け、残りの1-rを貸し出す。この貸し出された資金は、何らかの経済取引に用いられ経済内を循環し、新たな預金としてどこかの市中銀行に戻ってくる。
 次に、預金1-r単位を受け入れた市中銀行はr(1-r)単位を預金準備として中央銀行に預け、残りの(1-r)2単位を貸し出し、この資金は新たな預金として別の市中銀行に戻ってくる。
 このプロセスが繰り返されることにより、最終的には預金通貨は、当初預金を含め最大限1/rに増大することになる。
 当初預金が100万円で、準備率が10%とすれば、預金の総額は100/0.1=1000万円になる。

【銀行での信用の収縮】
 銀行への急速な預金の引き出し(取り付けと言われる)が起こると上記の信用創造の逆回転が起きる。預金が急に10%減ると、預金準備率を10%とした場合、貸し出しが銀行システム全体でその10倍減少することになる。
 ファーストリパブリックバンクのように1か月で41%も預金が減少すると、減少した預金を誰かが補填してくれないと(大手銀行による救済資金の提供か預金保険機構による預金者の救済)、貸し出しを維持することが出来ず、破綻は不可避だ。

【大手銀行も安全ではない】
 取り付けに伴う預金の急減に対して極めて脆弱なのは、最強の米銀と言われるJP Morgan Chaseや邦銀最強と思われる三菱UFJ銀行でも全く同様だ。
 金融市場への信頼を維持するためにFRBや日銀が「金融システムは安全だ」と繰り返しても預金保険を上回る預金は(米国では25万ドル、日本では10百万円)通常保護されないので、警戒心の強い大口預金者は預金引き出しに走る恐れは払しょくできない。
 自分が預金している銀行を不安視して預金を引き出しに走ると、
そうした行動は「自己実現的になる」のが恐ろしい。

2023年4月29日 土曜日