インドとカナダの外交関係

EurasiaGroupのGZERO North!というニュースレターに、インドとカナダの冷却化する関係が取り上げられていたので紹介したい。

『ニューデリーでのG20会議は最近、多くの関係者が成功したと喧伝しながら閉幕した。 55の加盟国からなるアフリカ連合もこのグループに加わった。 バイデン大統領は、インド、ヨーロッパ、中東を結ぶ鉄道と海の回廊計画を発表した。 そして、多少の意見の相違にもかかわらず、国家元首と政府首脳は、とりわけ気候変動、貿易、地政学について触れた共同声明に合意した。
しかし、カナダのトルドー首相にとっては、飛行機が故障したため文字通り足止めされることになったこの数日は素晴らしいものではなかった。
カナダは望んでいたものを手に入れることができず、G20での手に入れた手荷物は、バイデン政権やモディ政権の手にしたものと比べると軽いように見える。
カナダ政府は、ウクライナ戦争に対するロシアへのより厳しい叱責を望んでいたが、それを確保できなかった。 また、世界で最も人口が多く、急成長する経済国であるインドへのさらなる進出を含むインド太平洋戦略を推進したいと考えていた。
トルドー首相は、恥ずかしい軽蔑を避けたかったのは間違いない。 カナダがニューデリーとの関係の重要性をますます認識しているにもかかわらず、インドとモディ首相はカナダを排除するつもりはないものの、同国をトップレベルのパートナーとして評価していないという見方が関係者の間にある。 カナダは以前にもインドに冷遇されたことがある。
カナダはインドとの強固な貿易および移民関係を必要としている。2022年の両国間の貿易額は商品とサービスで約200億カナダドル(140億ドル)に達した。 インドはカナダへの最大の移民の供給源だ。 2022 年には、インドからの 12 万人近くの新規移民が永住者になった。これは、その年のカナダの永住者全体の 4 分の 1 以上に相当する。
首脳会談に先立ち、モディ政権は両首脳の二国間会談の可能性については慎重だった。 二人の指導者がお互いに特に気を使っていないのは明らかだった。両氏は結局ニューデリーで立ち話したが、二国間会談は開かなかった。
一方、バイデン氏とモディ氏は二国間会談を開催したが、これは6月のインド指導者のワシントン国賓訪問以来、わずか数カ月で2度目となる。 どちらの会談でも、特に貿易、エネルギー、技術に関して、米国とインドの関係が進んでいることが指摘された。 インドはインド太平洋地域やそれ以外の地域において中国のパートナーおよび代替国としての地位を確立することに熱心であり、米国もこれを喜んでいる。
カナダ当局者はしばしば外国との、さらに言えば国内の政策成果を米国の政策成果と比較する。 カナダ政府は定期的に米国政府とベンチマークされるが、カナダは、最大の同盟国であり、貿易と安全保障のパートナーである米国から離れすぎることはできない。
しかし、カナダは、世界で最も重要な新興大国の一つであるインドとの関係について、米国と歩調を合わせていないように見える。これはカナダと中国の複雑な関係を彷彿とさせる。両国間の貿易は2022年に過去最高を記録したが、トルドー首相は、米国の対中政策をヘッジし、中国がカナダの国内政治に干渉しているとされることを背景に、中国との関係を管理しようとしている。
インドとカナダの関係がいかに悪くなっているかを示す兆候として、両国はG20に先立ち、10年以上続いてきた通商交渉の無期限停止を発表した。 カナダは自らの立場を「検討」するとし、インドは受け入れた。 トルドー首相はその理由については沈黙を守った。
こじれた関係の多くは、モディ政権がカナダにおけるインド人難民に介入しようとしているという非難から来ている。』

カナダとインドの関係が冷たいものであるのは、この記事を読むまで知らなかった。インドにとっては経済的には二線級なのに、人権等でうるさく言う相手だということだろう。

日本外交では「法に支配され、自由で開かれたインド太平洋」という言葉が念仏のように唱えられている。「自由で開かれたインド太平洋」については以下のように説明されている。
Free and Open Indo-Pacific is an umbrella term that encompasses Indo-Pacific-specific strategies of countries with similar interests in the region. The concept, with its origins in Weimar German geopolitics, has been revived since 2006 through Japanese initiatives and American cooperation

更に日本は法の支配Rule of Lawの重要性を訴えており、外務省の外交青書によれば以下のように記載されている。

『「法の支配」とは、一般に、全ての権力に対する法の優越を認める考え方であり、国内において公正で公平な社会に不可欠な基礎であると同時に、友好的で平等な国家間関係から成る国際秩序の基盤となっている。さらに、法の支配は国家間の紛争の平和的解決を図るとともに、各国内における「良い統治(グッド・ガバナンス)」を促進する上で重要な要素でもある。このような考え方の下、日本は、安全保障、経済・社会、刑事など、様々な分野において二国間・多国間でのルール作りとその適切な実施を推進している。さらに、紛争の平和的解決や法秩序の維持を促進するため、日本は国際司法裁判所(ICJ)、国際海洋法裁判所(ITLOS)、国際刑事裁判所(ICC)を始めとする国際司法機関の機能強化に人材面・財政面からも積極的に協力している。また、日本は法制度整備支援のほか、国際会議への参画、各国との意見交換や国際法関連の行事の開催を通じ、アジア諸国を始めとする国際社会における法の支配の強化に努めてきている。
日本は、法の支配の強化を外交政策の柱の一つとしており、力による一方的な現状変更の試みに反対し、領土の保全、海洋権益や経済的利益の確保、国民の保護などに取り組んでいる。例えば、日本は、国連総会を始めとする国際会議や関係国との会談など、様々な機会に法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化を確認し、その促進に取り組んでいる。また、国際社会における法の支配の促進の観点から、日本は、国際法に基づく国家間の紛争の平和的解決、新たな国際法秩序の形成・発展、各国国内における法整備及び人材育成に貢献している。』

「力で現状を変更」しようとする対中国的には、「法の支配」に重点を置いた外交は有効だろう。ただ、インドのように国内の民族問題に強権をふるっているインド(やその他の強権的な政権を有する国家群)にむけて「法の支配」を強調すると、彼らの国内問題を刺激する恐れがある。

お題目として、特に対中国には、「法の支配」「開かれたインド太平洋」は結構だが、相手を見ての使い分けと、アクセントの置き方に気をつけないといけないだろう。かかる概念が広く受けいれられるのは西欧民主主義国に限られる。カナダのようにパージされる愚は避けなければならない。

2023年9月16日 土曜日