パワーハラスメント考

 職場でのハラスメントで一番ポピュラーなのがパワーハラスメント(通称パワハラ)だろう。

【パワハラとは】
 職場での立場や人間関係などの優位性を利用して、他者に肉体的・精神的な苦痛を与えることをいう。パワハラは上司が部下に対して行うと思われがちだが、先輩やある特定の技術能力が高い人、周囲の協力を得なければ業務を円滑に遂行できない場合には、同僚や部下なども「優位的な立場にある社員」となりパワハラを行う側に回りうる。
 人手不足によるストレス過多やリモートワークの進展といった労働環境の変化などにより、パワハラは増加傾向にある。社会耐性の低い人間が増えたことも増加の大きな要因だ。

【指導かパワハラか】
 よくある思い違いは、パワハラと指導の違いだ。その「目的」「業務上の必要性」「結果」の観点で比較するとわかりやすい。
 指導は相手の成長を促したり、業務状況の改善を促す目的で、業務上必要性が明確な指示やフィードバックを行う行為であり、その結果相手が職責を果たせたり、業務状況が改善することをめざして行う。
 一方、パワハラは、相手を自分の思い通りにすることを目的とし、人格の否定するなど業務の適正な範囲を超えて威圧的な態度や否定的言動を取ったり、技能に合わない過剰な量や内容の業務を指示し、結果として相手の心身を傷つけたり、職場環境の悪化や退職につながる行為を示す。
 つまり、相手の立場や状況を無視した業務と関係のない言動は「パワハラ」であり、業務遂行上の必要性があり、明確な目的や理由を持って相手のために行う関わりは「指導」だといえる。
 ただし、行う側は指導のつもりでも、受け手側がパワハラと感じる場合もあるので注意が必要だ。

【厚生労働省いうパワハラ概念】
 厚生労働省では職場のパワハラの概念として、次の3つの要素のいずれも満たす場合と規定している。
1.職場における優越的な関係を背景として行われること
2.業務の適正な範囲を超えて行われること
3.労働者の就業環境を害すること

【同 パワハラ行為類型】
 具体的なパワハラに該当しうる行為としては、厚生労働省が提示している6つの行為類型がある。すべて「優越的な関係に基づいて行なわれた行為」であることが前提となっています。何がパワハラに該当するのかを判断する基準にもなる。
1.身体的な攻撃
 相手を殴る、蹴る、物を投げつける、胸ぐらをつかむ、大声で怒鳴りつけるなど、身体的な攻撃をする行為。相手がけがをした場合や心身に不調をきたした場合は傷害罪に該当する場合もありうるが、故意ではなくけがをさせてしまった場合はパワハラに該当しないケースもある。
2.精神的な攻撃
 長時間にわたって相手を執拗に叱責する、人格を否定する、人前でなじったり侮辱する、「馬鹿」「死ね」「辞めてしまえ」と言うなどの場合が該当する。大勢を宛先に含めたメールの中で罵倒したり、解雇を匂わせる文言を入れるなどもパワハラに該当する。
3.人間関係の切り離し
 一人だけ別室に隔離して仕事をさせる、ミーティングや職場イベントの日程を故意に教えない、または出席を認めない、あいさつをされても無視するなど、同僚や上司との接点を意図的に切り離すことをいう。
4.過大な要求
 本人の能力を考慮せず高度なスキルや熟練がなければできない仕事を強制する、適切な指導をせずに業務を丸投げする、物理的に不可能な業務量を押しつける、不要な残業や休日出勤を強制するなどは過大な要求と見なされ、パワハラになる。私的な雑用を強要することも過大な要求といえる。
5.過小な要求
 合理性なく本人の能力や職能を極端に下回るような仕事しか与えない、あるいは担当職域に関連した仕事を全く与えないことなどもパワハラといえる。例えば専門職の社員に雑用やお茶くみしかやらせない、特定の社員に気に入らないなどの理由で仕事をまったく与えないなどが該当する。
6.個の侵害
 部下が嫌がっているのに執拗に恋愛や結婚生活、休日の過ごし方などについて尋ねたり、セクシャリティや宗教などの個人情報を周囲に吹聴する、プライベートでの付き合いを強要するなどの行為は、プライバシーの侵害としてパワハラになり得る。業務上の配慮をするために家族の状況を質問する、長期休暇前に海外渡航の予定を確認するなど、業務管理上必要な情報を聞くことは該当しない。

【企業が取るべき対策】
1.事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
 経営トップが、パワーハラスメントは職場からなくすべきであることを明確に示す。就業規則等でパワーハラスメントの禁止や処分に関する規定を設ける。
2.相談に応じ適切に対処するための体制の整備
 相談窓口をあらかじめ定め、全従業員に周知する。相談窓口担当者が相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにする。
3.事後の迅速かつ適切な対応
 相談後、パワハラに関する事実関係を迅速かつ正確に確認し、事実確認ができた場合は、すみやかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行い、再発防止対策を講じる。事実確認ができなかった場合でも、再発防止対策と同様の措置を講じる。
4.パワハラ相談を理由とする不利益取り扱いの禁止プライバシーの保護
 相談者・行為者等のプライバシー保護のための措置を講じ、その旨を従業員に周知する。 相談したこと等を理由として、解雇その他不利益な扱いをされない旨を定め周知する。

【実際に起きたら】
 パワハラ事案はどこにでも起こりうる。パワハラ事案の萌芽に対しては、適切な部門が(社内では内部監査部や監査役、社外では顧問弁護士)対応することが肝要だ。
 事実関係の確認をなるべく早く行い、指導かパワハラかの判断を客観的な視点で行うべきだ。
 法律的にもめるケースも多いので、労務に詳しい弁護士からのアドバイスを受けながら対応したい。

2023年2月18日 土曜日