コロナ後遺症をめぐる労務問題

5月14日付のニューヨークタイムズによれば、米国では約700万人がコロナの後遺症で就業不能に陥り、大きな社会問題になっているとのことだ。

 米国での最近までの陽性確認数の累計は8240万人だから、感染者の約8.5%が後遺症に苦しんでいることになる。タイムズの記事によれば、症状が軽かった若者が仕事に戻ってほどなく後遺症に苦しむ事例が多いそうだ。後遺症での休職は失業保険の対象だそうだが、後遺症かどうかの認定が簡単ではなく、保険をもらえずに職場に居づらくなって退職する若者が多い。米国で採用しようにもできない仕事のうちの15%がこういったコロナ後遺症で充足できないのだという。後遺症はワクチン接種率の低い南部で多く見られ、接種の進む北東部との新たな南北問題の発生という見かたも出て来ている。

 日本の感染者累計は833万人。米国の約10分の1だ。さすれば、我国でも、70万人ぐらいはコロナ後遺症に悩む若者がいてもよさそうだが、日本では後遺症に関する報道は極めて少なく、詳細はやぶの中だ。

 厚生労働省のHPを見ると以下の記述がある。
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<感染し休業する場合>
問1 新型コロナウイルスに感染したため会社を休む場合、休業手当は支払われますか。
回答: 新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当は支払われません。 なお、被用者保険に加入されている方であれば、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されます。 具体的には、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近12カ月の平均の標準報酬日額の3分の2について、傷病手当金により補償されます。 具体的な申請手続き等の詳細については、加入する保険者に確認ください。
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一方、後遺症についての厚生労働省の説明は以下だ。
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<感染後の職場復帰>
問2 新型コロナウイルス感染症に感染し、治療・療養が終わりましたが疲労感、息苦しさなどの症状が続いています。どうしたらよいでしょうか。
回答:新型コロナウイルス感染症になった後、治療や療養が終わっても一部の症状が長引く人がいることが分かってきております。長引く症状(いわゆる後遺症)については、令和3年6月16日に以下の様に3つの研究班から報告されており、詳細は参考からご確認頂けます。今後も引き続き研究を進め、新たに分かってきた情報については順次明らかにして参ります。
療養後にもこのような症状が継続している場合には、使用者は労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮を行うこととされていることなどを踏まえ、主治医等の意見を聞いた上で、会社の担当者等に勤務時間の短縮やテレワークの活用等の負担軽減の措置がとれないかご相談いただくことが重要です。
① 2020年9月~2021年5月にCOVID-19で入院した中等症以上の例において、退院3ヶ月後に肺CT画像上で何らかの画像所見があった者は353例中190例、肺機能検査の結果では肺拡散能(DLCO)が障害されやすい、自覚症状はとして筋力低下と息苦しさは明確に重症度に依存
② 2020年1月~2021年2月にCOVID-19 PCR検査もしくは抗原検査陽性で入院した症例のうち、診断後6ヶ月経過した246例において症状が残っている人の割合は、疲労感・倦怠感21%、息苦しさ13%、睡眠障害・思考力や集中力低下11%、脱毛10%、筋力低下・頭痛・嗅覚味覚障害9%
③ 2021年2月~2021年5月に病院入院中、ホテル療養中の無症状・軽症・中等症のCOVID-19患者(20歳~59歳)の参加希望者において、1か月後までの改善率は嗅覚障害が60%、味覚障害が84%であり多くの味覚障害例は嗅覚障害に伴う風味障害の可能性が高い
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この回答は長いが、労災が適用されるかどうかの説明がなく、核心からずれている。結局は、日本でもルールははっきりしていないと考えるのが妥当なのだろう。

 業務に関連してコロナに罹患すれば労災に認定され、後遺症も労災に認定されるが、空気感染するコロナでは、業務由来の感染かどうか判断が難しいケースが多そうだ。

 労使間で話し合いをしっかり行い、コロナ後遺症への対応を整備しておくべきだろう。「うちの会社はここまで社員の面倒をしっかり見てくれる」という従業員の意識こそが、企業の生産性向上の要だろうと思われるからだ。

(2022年5月15日 日曜日)